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警報にご注意！
風薫る５月。本来晴天が続き、一年で最も過ごしやすい季節のはずなのですが、もう雨の季節になってしまいました。今年（令和３年）の梅雨入りは記録的な早さとなり、気象庁は５月１６日に近畿地方が梅雨入りしたとみられると発表しました。統計開始以来、最も早い梅雨入りだそうです。この時期に心配なのは雨による災害です。平成２３年の紀伊半島豪雨では五條市南部で山崩れを伴う大きな被害が発生し、未だに復旧作業が続いている状態です。豪雨による人的な被害をなくすためには、気象庁や自治体より出される気象警報及び避難情報を目安にし、なによりも早いめに避難することが大事です。
私たちの人生には様々な出来事が起こってきます。何もかも自分の願い通りに進むこともあれば、順風満帆だった人生が突然暗転し、慌てふためくこともあるでしょう。その様子は、ちょうど晴の日、雨の日、嵐の日が交互に繰り返しやってくる日々の気象状況と同じように思えます。そして、うまくいかなくなった時、気象警報のように事前に分かっていればそれなりの対応もできるのにと願いたくなるものです。
お大師さまが諸国を行脚（あんぎゃ）しておられる時、急峻な峠にさしかかりました。急な坂道を上りきり、ふと見ると見事な梨の木が目に入りました。木にはたくさんのおいしそうな梨が実っており、一人の男がせっせと梨を取り入れていました。のどが渇いていたお大師さまは、その男に「ちょうど持ち合わせの水がなくなり、のどが渇いて困っております。その梨を一ついただけないでしょうか」とたずねたのです。すると男は、「だめだめ。この梨は石のように固くてまずい梨だから食べられないよ」と答えたのです。お大師さまは、「そうですか。石のように固くて食べることのできない梨ならしかたがないですね」とその場をお去りになりました。その姿を見ながら男は「こんなおいしい梨をどこのだれかわからない、みすぼらしい坊主にはやれん。もったいない、もったいない」とつぶやいたのです。
次の日、男はいつものように梨を町に売りにでかけました。「甘くておいしい梨だよ。おいしい梨はいらんか」と声を出すと、男の梨を求めてたくさんの人が集まってきました。梨は次から次へと売れていき、男はは大喜びでした。ところが、最初に梨をかじったお客さんが「なんじゃこの梨は。石のように固くてとてもまずい。こんな梨は食えないぞ」と怒りだしたのです。他のお客さんも梨を食べて、同じように「こんな固い梨は食べられないぞ」怒り出したのです。男がそんなバカなと梨をかじってみると、昨日はかじると甘くておいしかった梨が確かに石のように固くて、とても食べることができないものになっていたのです。その時、男は昨日、旅の途中のお坊さまに言った自分の言葉を思い出すのです。石のように固い梨と嘘を言ったが、本当に石のように固い梨になってしまった。あのみすぼらしいお坊さまはお大師さまだったのかと気づいたのです。しかし、時すでに遅し。その年から甘い梨は実らなくなったとのことです。
嫌なことが起きると、私たちはよく罰（バチ）があたったと嘆きます。当然、誰しも罰があたることは望まないし、時に、なぜ仏さまは私たちに罰という苦しみを与えられるのかと疑問を感じるときもあるかもしれません。しかしよく考えて見ると、罰もまた仏の慈悲なのかもしれません。ほっておいたら崖から落ちてしまう。このままではだめだ。早く歩む道を改めよという仏の警告が、私たちには罰と感じられるのかもしれません。ケチで人に施すことを知らず、嘘をつくことを恐れない、そんな人生を送っていると今にとんでもないことになる。早く改めよというお大師さまの慈悲が、固い梨になって現れているのでしょう。自分の望まぬことが起こってきたとき、大事なのは、嘆き、不満を言うだけでなく、これは仏さまによる警報かもしれないと考えることが大事なのかもしれません。
小さな子どもたちをお預かりする保育園では、これから梅雨明けまで、気象警報がでていないか絶えず注意をする日々が続きます。気象警報はテレビ、ラジオ、ネットで知ることができますが、人生の警報はどうすれば知ることができるのでしょう。それは、日々に自分の人生を振り返ること、懺悔（さんげ）することが大事だと言われています。気象警戒レベルは１から５段階まであり、レベル３では、高齢者、乳幼児など避難に時間がかかる人たちは避難を開始、レベル４では全ての人が必ず避難、レベル５になると命が危ない状態で避難を完了していなければならないとされています。あたりまえのことですが、レベルが低い間に避難をする方が助かる率は高くなります。私たちの人生に警報はでていないでしょうか。手遅れにならない内に自分の人生を一度振り返ってみる必要があるのかもしれません。
令和３年５月
