同事行


  堤防の上を歩いていてふと下を見ると、川で溺れている人がいるとします。その人を救おうと思えばどうすればよいのでしょうか。堤防の上から溺れている人に、手をもっと動かせ、足をバタバタしてみろと声をかけても助けることはできません。なぜなら手を動かせない、足を動かせないから溺れていているのです。助けようと思うなら、堤防から降りて行き、川に飛び込んでその人のそばに行かなければ助けることはできないでしょう。
  飛び込むことによって衣服は濡れ、冷たい思いをし、そして 自分の命も危なくなるかもしれません。でも助けようと思えば堤防の上から声をかけるだけではだめなのです。つまり苦しんでいる人と同じ立場になり、同じ苦しみを分かち合わないと人は救えないないということなのです。

なぜその人をそこまでして助けるのか、それはその人の苦しみを私が知っているから

  苦しんでいる人と同じ立場に立ち、人を救う行を「同事行」といいます。同事行の大事なところは相手の立場にたつこと。相手の立場に立つことにより初めて相手の苦しみがわかるからです。相手と同じ立場に立つには、同じ事を行う(同じ状態になる)ことが大事ですが、さらに同じ事をされる(同じ状態にある)ことをイメージすることも必要です。
 
  実際にあった話をあるテレビ番組で再現していました。派遣社員のAさんは、無事、派遣期間が過ぎ、派遣されていた会社を退職することなります。最終日に送別会を開いてくれることになりました。送別会といっても出席者は上司の課長と課長補佐の二人だけのこぢんまりしたものです。最初は、なごやかな雰囲気でしたが、終盤になるとお酒に酔った上司が、Aさんの横に座り、身体を触ったりするのです。典型的なセクハラです。嫌がるとそんなに仕事もできないのにお高くとまって、というような暴言を吐くのです。我慢して送別会はなんとか終わりましたが、どうしても許せないので、派遣会社に電話をして抗議をしました。
  するとある日の夜、Aさんの家に、派遣先の会社の社長と人事課長が突然お詫びにやってきたのです。対応したのはAさんの父親でした。物静かな父親で、普段からあまり会話もなく、今回のことも無関心な様子でした。父親は毎日を晩酌をします。その日もビールを飲んでいて、社長と人事課長がやってきたときにはほろ酔い加減でした。Aさんはこんな父親が適切に対応できるのか不安でした。
  社長さんが、手土産のお菓子を出し、まずこのように切り出します。「このたびは、我が社の社員が大変失礼なことをいたしました。何分、お酒を飲んでのことで、本人もよく覚えていないようです。酒の上のことですので、何卒ここは一つ穏便にすませてください。」そして二人とも頭をさげたのです。父親は、手土産のお菓子をまず取り、「有名なお店の菓子ですね。あっ、でもこれ賞味期限が明日になってますね。賞味期限がこんな短いものを持って来て、あんた、本当に謝る気があるの。こんなことだから、部下の管理もできないのじゃないの。」さらに、人事課長に対しては、「あんたもこんな社長に仕えているようではだめだな。きっとたいした仕事もできないのだろうね」と言い放つのでした。
  社長さんは少しむっとして、こちらは謝っているのに少し失礼なと不快な様子です。すると父親は、「今私は酔っています。酔っているから何を言っているのかよく分かりません。酒の上のことですから何か失礼なことを言ったようでしたらお許し下さい。」その時二人はようやく気づくのです。酔ったせいでと言うが、それは言い訳にならない。酔っていようといまいと関係ない。ひどい行い、無神経な言葉に相手は傷つくのだと。そこで、初めて自分たちの非を悟り、心の底から謝るのでした。恐縮する二人に最後に父は、「失礼なことを申し上げたが、私にとってはいくつになっても大事な娘なんです。わかってください」と言ったのだ。父親を演じていたの小日向文世さん。渋い演技でした。
  同じ事をされてようやくわかること、つまり、同じ事をされるまでわからないは多いものです。保育園でも日々子ども同士のトラブルが発生することがよくあります。まずトラブルが起こった時、もちろんトラブルによりますが、叱ることは必要なことでしょう。でも保育者は、叱るだけで終わることはありません。子どもの話によく耳を傾けるのです。 

先生:○○君、なぜたたいたのかな。  
子:お友だちがおもちゃをかしてくれなかったから・・・。
先生:○○君が遊んでいるときに、かしてといわれたらどうかな。
子:ちょっといやだ。
先生:そうだよね。遊びたいもんね。お友だちもおもちゃともっと遊びたかったよね。
先生:○○君はたたかれるのは好きかな。
子:たたかれるのはいや。

  ただ叱るだけでは問題解決にはなりません。自分が嫌なのことは相手も嫌なんだ、これを本人に悟らせることが保育であり教育なのです。そして、これは大人にとっても大事なことです。大人のもめごとも、国同士のもめごとも突き詰めていけば子どものもめごとと変わらないことが多いもの。相手の立場に立つ「同事行」を悟れば収まるのかもしれません。

*念のため、実際、溺れている人を救う時には、よほど泳ぎに自信がある人でないと川に飛び込んではいけません。自らも溺れてしまうからです。推奨されている救助方法は下記の通りです。
1.すぐに仲間、周りにいる人に助けを呼ぶ。
2.溺れている人に助ける旨を伝える。
3.119に連絡する
4.機転を利かし、助けるための道具を探す。(ペットボトルやロープを投げる等)

  吉野川では毎年水難事故がおこります。小さな子どもと川に行くときは、必ず子どもにライフジャケットを着用させてください。50cmの水深でも子どもは溺れしてまうことがあります。絶えず油断せず、目をはなさいことも大事です。

 

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