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老舗(しにせ)
以前、ある会で工場の見学に行ったことがあります。名前を言えば誰もが知る大きな会社の工場で、広大な敷地には近代的な建物がずらりと並んでいました。とても大きな敷地なので移動はバスになりました。バスの中では、社員の方が会社や工場について色々説明してくださいました。バスの中から外を見ていると、小さな一軒家を見つけたのです。近代的な建物中でその一軒家は、言葉は悪いのですが、どうみてもあばら屋で、その家の存在がとてもアンバランスな感じがしました。思わず案内をしてくれていた社員の方に「あの家はなんなのですか。どうして壊してしまわないのでしょう。見かけもよくないし・・・」と聞いたのです。すると答えはこのようなものでした。
あの建物は、この会社の創業者の生家なのです。創業者はあの家で事業を始めました。とても苦労をされたそうですが、一代で日本有数の会社に育てあげました。私たちは、いつもあの家を見るたびに、創業者の苦労をしのび、初心を忘れないようにしているのです。だから、古ぼけた小さな家なのですが、私たちは大切にしているのです。」このお話しを聞いて、この会社がなぜ日本でも有数の大きな会社に成長したのか、また常に業界トップレベルの売り上げを達成しているのか、その理由が分かったように思いました。
老舗という言葉があります。古くから続くお店で、信頼があるお店のことです。老舗という言葉は、もともと始めに似せる、「始似」という言葉に由来するそうです。つまり年月が経とうとも、常に創業者の心を忘れず持ち続けることのできるお店が老舗なのです。老舗と呼ばれる店ではいい加減な商品を売ったり、お客さまを粗末にすることは決しありません。その信頼が店に繁栄をもたらします。
私たちは人生を考える時、将来に目を向けやすいものです。すてきな人と出会って、すてきな家庭を作りたい。だれでも将来を考えると夢がどんどんふくらみ、楽しくなってきます。これから歩もうとする自分の未来を考えることはとても大事なことです。しかし、同時に忘れてはならないのは、過去を大事することです。私たちはどのようにして育ってきたのか。両親や祖父母はどのような想いで私たちを支えてきてくれたのか。生命を伝えてくださった御先祖はどうのような方であったのか。過去を大事にすることを通して、初心を忘れないお店が老舗と呼ばれ、信頼と繁栄を得ることができるように、私たちもまたしっかりとした実りのある人生を歩めるのかもしれません。
(令和3年4月)